鳥取大学医学部消化器・腎臓内科学は2022年に開講75周年を迎える伝統のある臨床教室です。激動の次代10年、新たな出発に向けてご挨拶申し上げます。がんの死因の上位5位のうち4つをしめる消化器がん、全身臓器の要である肝不全・腎不全、食生活欧米化に伴い増加している炎症性腸疾患など様々な難治性疾患の病態解明や新しい診断法・治療法の開発に取り組んでいきたいと思います。大学には「教育」「研究」「診療」の3つの使命があります。
教育
次世代を担う消化器内科医・腎臓内科医を育成するためには、大学の取り組みだけでは十分ではなく、関連病院と緊密に連携をとりながら共通の認識や指導体制、地域大学循環型の教育環境が重要です。卒前教育では、内科学の魅力や面白さを伝えるために臨場感溢れる教育を行うこと、消化器病態生理の基本を系統的にわかりやすく画像や動画を豊富に取り入れ、国試内容に沿った質疑応答も織り交ぜて授業を行います。診療参加型臨床実習を重視し、初期研修マッチングに繋がる評価の場という認識で、教員とスタッフが一丸となり熱意をもって指導しています。卒後教育では、消化器診療を軸に全身をみる内科医を涵養します。内視鏡初学者用のシュミレーターロボットを共同開発していますが、IoT技術を導入し英語版ナビゲーションガイドと評価機能を付与し自主学習を可能にするアクティブラーニング型の国際的内視鏡教育を目指します。専門医教育では、新内科専門医制度の情報をいち早く把握し内科各分野と連動して内科専門医を取得し、消化器病学会・腎臓病学会をメインに、肝臓学会、内視鏡学会、消化管学会、透析学会、超音波学会など個々の特性に合わせて早期に専門医の取得ができる指導体制を構築しています。肝胆膵、炎症性腸疾患、腫瘍薬物療法など高次機能病院を支える技能の高い専門医を養成するために国内研修も進めていきます。
研究
教室員には実験による研究が病態の理解を深め臨床医として成長に繋がるとして大学院進学を薦めています。研究テーマとして慢性炎症を理解して消化器癌の発癌の解明に取り組み生体試料を活かした臨床医の視点から研究を行っています。私はこれまで、炎症性腸疾患マウスモデルとジーンターゲッティング・粘膜免疫学的解析、消化器炎症発癌のエピジェネティック機構、さらに脂肪性肝障害や肝発癌実験にも積極的に参画して、消化管だけでなく肝胆領域への研究視野が拡がりました。今後とも細胞生物学的、分子生物学的手法により疾患の分子基盤を明らかにし、病因論に根ざした予防法や新規治療を開発したいと思います。またグループ別でなく「癌」「炎症」「再生」の研究ユニットを作り人員や予算を集約化して分野横断的にアプローチしています。
主任研究者としては、)動物モデルを活用した消化管狭窄や肝硬変に対する新規の低分子化合物や自己組織細胞シートの抗線維化治療2)発光法を用いた分子内視鏡イメージング法の開発3)統合メタボローム解析特にポリサルファ代謝系を介する抗酸化ストレス制御による抗炎症新規治療法の開発4)粘液層固定技法改良による大腸腫瘍の発生・進展における腸内微生物叢と粘液形質の関連性5)膵癌早期診断の確立に向けた合成セクレチン負荷法による膵液エキソソーム解析6)アカラシアの病因解明特に内視鏡的筋層切開術手技による生体試料を用いた原因ウイルスの探索とインピューテション法による日本人アカラシアゲノムワイド解析等をテーマにして、現役でも直接実験指導に当たっています。これまでの研究活動で培ったネットワークを活用し、国内外研究機関と人材交流を図り国際研究力を強化したいと考えています。
多忙な日々にあっても、成書や文献を精読し最先端の情報を得ることが重要です。私はこれまで、教育・診療・研究と共に、学術活動を重視し、基礎研究、橋渡し研究、臨床研究を原著論文として成果を残すこと、貴重な症例はケースレポートとして纏めることを根気強く積み重ねてきました。この経験を活かして教室員の論文執筆から投稿、受理に至る過程を懇切に指導し、英文校正サービスを医局でサポートし、査読やジャーナルクラブ活動で教室員の学術活動を支えています。
診療
内科学会、消化器病学会、内視鏡学会、消化管学会の専門医・指導医を取得し、現在それぞれの学会英文誌の編集委員(内視鏡学会は英文誌副編集長)を担当しています。「消化器癌・免疫難病の克服」を診療の柱として、消化器癌、クローン病などの難病に真摯に向き合い1症例を大切に診療する姿勢を重視しています。がんセンター長時に連携病院として当県のがんゲノム医療の基盤作りに参画できました。今後大学で診療に携わる内科医は、遺伝子情報やバイオインフォマティクスの知識が求められます。最先端の知識・技術を駆使して良質で安全な消化器内科診療を実践していきます。
近年包括医療の導入や独立法人化により経済効率の良い医療の実践が要求され、病床利用率・診療点数の拡大を計る上で、第二内科は大学病院の中で最大の経営収益(純益)を挙げており、最も重要な診療科と認識しています。内外から患者が集う先進的内視鏡診療を特色とし、癌の早期診断法の開発や発癌予防法の探索し創出成果を地域社会に還元する産学官連携を展開したいと思います。昨年より大学発ベンチャー起業に参画し、深層学習による大腸癌発生領域の予測に向けた非剛体特徴点抽出による内視鏡画像照合システムの開発に着手しています。炎症性腸疾患に対する免疫制御薬や生物学的製剤等の治験に積極的に取り組み、関連病院群とエビデンスレベルの高い前向き試験を企画していきます。
医局員は次世代医療、医学の発展を担う財産であることを強く認識して、力を最大限引き出し伸ばすことができるよう、消化器腎臓内科学の教室運営を一層充実したいと考えています。病者への献身と奉仕を常に念頭におき、リサーチマインドを持つ医療人、患者の健康を願う医学研究者として、大学人として求められる教育・臨床・研究に取り組むよう、リーダーシップを発揮したいと思います。
セレンディピティ
新型コロナの感染拡大で大学生活様式が一変しました。今まで当たり前だった学会での意見交換や親睦会での交流、旅行など人が多く密集する場所や移動を避けることが求められ、オフラインからオンラインに主軸が変わりつつあります。しかし、今までにはないネットワークが構築され、物理的距離のある人や組織同士が共同研究を遂行できる機会も広がっています。予定調和の診療・研究では得られないような成果、情勢を俯瞰し固定観念や既存の価値観に囚われないフラットで柔軟な視点から新しいことにチャレンジし、「セレンディピティ」(偶然の幸運を手に入れる主体的な力)を若い教室員と共有していきたい思っています。今後もどうぞよろしくお願い申し上げます。