LIVER

多くの症例に対し
様々な角度からアプローチ。

肝臓グループでは、ウイルス性肝炎、肝硬変、肝臓がん、非アルコール性脂肪性肝疾患、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、門脈圧亢進症などの多くの肝疾患の診療を行っています。特に肝臓がんや門脈圧亢進症に対する治療では、個々の症例に最適な治療を提供すべく、肝臓外科や放射線科と連携しチーム医療を実践しています。また肝臓グループでは、肝臓疾患に限定せず、内科医として幅広い見識を持ち、様々な病態に対応できる医師の育成を目指し、後進の指導に力を注いでいます。

1.

・腹部超音波検査:3345件 ・腹部造影超音波検査:168件 ・肝硬度測定(エラストグラフィー):117件

・ラジオ波焼灼術:69例 ・肝生検:61例 ・その他:9例

・分子標的治療新規導入:49例 ・免疫チェックポイント阻害剤新規導入:17例

(1) 肝細胞癌に対するラジオ波焼灼療法(RFA)
肝細胞癌に対する治療はエタノール注入療法から、より根治性の高いラジオ波焼灼療法(RFA)へ移行しています。より効率的にRFAを行うために人工胸水・腹水下やCT下RFAなどの工夫を行っています。また、腹部(造影)超音波とCT、MRIとのfusion画像を用いて、より精度の高い治療を行っています。RFAの根治性を高めるため、RFA後同日にMRIを行って焼灼範囲の確認をしています。
 
(2) 進行肝がんに対する薬物療法
進行肝細胞癌に対する全身化学療法は分子標的治療薬が中心でした。2009年5月に保険認可されたソラフェニブの後、2017年6月にソラフェニブの二次治療としてレゴラフェニブ、2018年3月にはレンバチニブが一次治療薬、2019年夏にラムシルマブ、2020年末にカボザンチニブが二次治療薬として登場し、肝細胞癌の治療選択肢が増えてきました。さらに、2020年秋に免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブと血管新生阻害薬であるベバシズマブの併用療法が保険認可され、進行肝細胞癌の予後改善が期待されています。但し、これらの薬物には特有の副作用があり治療継続が困難な場合もありますので、より安全に治療を継続していけるように看護師や薬剤師といった多職種のスタッフと連携しています。

肝硬変が進行すると、腹水、肝性脳症(高アンモニア血症)、亜鉛欠乏症、低カルニチン血症、皮膚掻痒、血小板減少症、門脈血栓症などの合併症が起きやすくなります。これらに対する薬物療法が進歩してきましたので、肝性腹水にはトルバプタン、肝性脳症にはレボカルニチン・リファキシミン・酢酸亜鉛水和物、皮膚掻痒症にはナルフィラフィン塩酸塩、観血的処置が必要な血小板減少症にはルストロンボパグ、アンチトロンビンIIIが70%以下に低下した門脈血栓症にはアンチトロンビンIII製剤を投与し、病状改善を図っています。一方、こういった薬物療法でも改善しない難治性腹水に対して、腹水濾過濃縮再静注療法(CART療法)や経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術(TIPS)を行っています。また難治性肝性脳症のうちシャント性高アンモニア血症に対しては、カテーテルを用いたシャント閉塞術を行っています。こういったカテーテルを用いた治療は、放射線科の専門チームと綿密に連携を取りながら診療にあたっています。

C型慢性肝臓病に対する抗ウイルス療法は日進月歩であり、全てのセロタイプの患者さんに対して、インターフェロン(IFN)を使わない飲み薬だけの最短8週間の治療(直接作用型抗ウイルス剤、DAAs)が保険認可され、副作用が少なくかつ100%近い治癒率が得られています。但し、稀に薬剤が効きにくいC型肝炎ウイルス遺伝子変異を持った患者さんがおられますので、武蔵野赤十字病院との共同研究により、C型肝炎ウイルス遺伝子変異を測定し、個々の患者さんにあった個別化治療を実践することによって、より高い治療効果を目指しています。

慢性肝臓病患者さんに対する抗ウイルス療法は、肝病変の進行を抑えるとともに肝細胞癌の発生を抑制することが分かってきました。当科では肝細胞癌治療後の根治患者さんに対して、C型慢性肝臓病ではDAAs製剤、B型慢性肝臓病では核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩、テノホビルアラフェナミドフマル酸塩)の投与によって、肝細胞癌の再発が有意に抑えられ肝予備能も改善することを期待して、積極的に治療を行っています。

従来NAFLDは単なる脂肪肝として重篤な疾患とは考えられていませんでした。しかし、NAFLDの一部である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝硬変、肝がんと進展することが明らかとなり、近年増加傾向にあることもわかってきました。肝臓グループではNASHを診断するために肝生検を行い、早期に治療を開始するようにしています。さらにNASHやNAFLDの内臓肥満との関連を調べるとともに、治療効果の推移を血清マーカー、腹部超音波検査による内臓脂肪の評価、超音波エラストグラフィーによる肝硬度測定で行っています。NAFLDでは糖尿病や脂質異常症といった併存疾患をお持ちの方も多く、内分泌代謝内科と協力して診療を行っています。

従来、肝細胞癌の約90%はB型肝炎およびC型肝炎ウイルスが原因であり、これらのウイルス陽性者(キャリア)は肝細胞癌の高危険群であることから、定期的に腫瘍マーカー測定(AFP、PIVKA-II)や画像検査(腹部超音波、腹部ダイナミックCT、EOB-MRIなど)で経過観察(サーベイランス)を行うことにより、肝細胞癌の早期発見が可能でした。当科では、肝細胞癌の高危険群であるB型とC慢性肝臓病患者さんを厳重に経過観察を行うことにより肝細胞癌の早期診断を行い、生命予後の改善に繋げるべく日々努力しています。当院だけではなく鳥取県内の主な医療機関、鳥取県健康対策協議会、鳥取県肝疾患相談センターとも協力して、肝発癌高危険群に対するサーベイランスが守られるように対策を行っています。また、B型・C型肝炎ウイルスに感染していることを知らずいきなり肝細胞癌と診断される患者さんもおられるため、肝炎陽性患者さんの掘り起こしのために市民向け講演会・ラジオ番組・ケーブルテレビ放送・新聞チラシなどを活用した啓発活動を行っています。一方、B型とC型肝炎ウイルスが陰性にもかかわらず肝細胞癌が発生する非B非C型(NBNC)の肝細胞癌が増加しています。NBNC型の肝細胞癌の多くは偶発的に進行した状態で見つかります。NBNC型の肝細胞癌の原因として、アルコール、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、過去のB型肝炎ウイルス感染、糖尿病などの生活習慣病など等が推測されていますが、まだ明確となっておらず、研究を進めています。

2.

肝がんの中でも肝内胆管がん(ICC)は難治がんに分類され、近年全世界的に増加傾向と報告されています(タイでは1985年から4-5倍、豪州では1990年代の5-7倍)。早期発見が難しく,比較的早期では外科切除の適応になりますが、切除不可能例の治療法は限定的で、胆管がん(ICCを含む)の5年生存率は7-20%と予後が不良です。標準治療は殺細胞性の化学療法が主で、分子標的治療薬を含む新たな治療法は遅れており、新規の分子標的治療法の開発は喫緊の課題といえます。我々のグループは、転写調節因子YAP(Yes-associated protein)をターゲットにした新規分子標的治療薬の開発に取り組んでいます。

食道静脈瘤破裂は、現在も肝硬変患者さんの致死的な合併症の一つです。これまで、食道静脈瘤を予測する方法として、血小板数、脾臓のサイズ、肝硬度など様々な低侵襲検査法が提案されてきました。我々のグループは、スマートフォンの血管強調アプリを用いて、体表に浮かび上がる拡張した腹壁静脈瘤(AWV)の検出が可能になる事を発見し、新たなAWVのグレード分類を開発しました。この分類により、非接触で体表から食道静脈瘤の存在を検出できる可能性が明らかになり全国学会で発表しました(第107回日本消化器病学会総会ワークショップ)。今後更に、体表画像解析の研究を進めていく予定です。

肝臓病における非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)/脂肪肝炎(NASH)の占める割合は増加傾向ですが、標準治療は未だ確立されておらず、有効な治療法の確立が課題となっています。我々は、実臨床で高脂血症治療薬ペマフィブラートがNAFLD/NASH患者さんの肝機能を劇的に改善する事を経験したことを基にして、内分泌代謝内科のグループと共同で、後ろ向きにその肝機能改善効果を検証しました。その結果、ぺマフィブラートが6か月間でALT値とγGTP値を約50%低下させることを世界で初めて報告しました(Ikeda S, et al. Yonago Acta Medica 63:188–197.2020).今後も更にその有効性を継続的に検証していきます。

我々のグループは、これまで非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)/脂肪肝炎(NASH)の病態において、小胞体(ER)ストレス応答という現象が重要な役割を果たしている事を報告し(Nagahara R, et al. Yonago Acta Med. 62:36-46.2019),国際学会でも高く評価されています(DDW2019@ San Diego Poster of Distinction).現在更に、ERストレス応答を治療標的として研究を進めており,過剰なERストレス応答を改善する治療薬に関して国際学会で報告し、高く評価をされました(The 29th Asian Pacific Association for the Study of the Liver (APASL) 2020 in Bali, travel grant).今後も更に、臨床で有効な治療薬の検討を進めていきます。

近年のエコー機器の進歩により、携帯性が増し、ベッドサイドで検査を実施する事が可能となりました。このことにより、医師や検査技師のみならず、多くの医療者がエコーに触れる機会が増加する事が予想されます。しかしながら、教育訓練に関しての手法の開発は遅れており、より簡便に、楽しみながら、効果的に学習する方法の開発が望まれます。そこで我々は、gamificationによる学習に注目し、小中学生にも楽しみながら、エコーが学べる学習キットを企業と共同で開発しています。すでに附属中学校の生徒さんたちに、開発した学習キットを使い、遊びながらエコーについて学ぶ授業を実践しています。今後更にキットの改良を行い、ハンズオンセミナーを開催していく予定です。